不動産の賃貸借契約が終了したときは、原則として、
原状回復義務があります。
しかし、不動産の賃貸借契約中に賃借人(入居者)が有益費を
支出していた場合、その賃貸人(大家)に対しては、原状回復せず
有益費を請求することができます。
これを有益費償還請求権(民法第608条第2項)と言います。
賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、
その償還をしなければならない。
ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について
相当の期限を許与することができる。
Contents
有益費償還請求権の対象となる条件
・建物の構成部分(取り外せない)の増築・設置
・所有権が賃貸人に帰属する(貸主(大家)のものになる)
・価値の増加が現存している
上記の条件を全て満たしている場合、
賃借人(入居者)は、賃貸人(大家)に対して有益費償還請求を
することができます。
・通路部分の舗装
・トイレを汲み取り式から水洗式に改造
・外壁のタイルや床板の張替え
有益費については、原則として、
賃貸人(大家)の同意・承諾は不要です。
有益費償還請求権で請求できる金額
・賃貸物件の価値の増加額
のどちらかを賃借人(大家)が選択することができます。
つまり、賃貸人(大家)は、賃借人(入居者)が実際に支出した金額を
全額支払う必要はなく、賃借人の支出した額と価値の増加額の
いずれか低いほうを選択することができます。
賃貸人(大家)は
・100万円(賃借人(入居者)の支出した金額)
・5万円(賃貸物件の価値の増加額)
のどちらかを選択して、賃借人(入居者)に支払うことができます。
当然安いほうを選択するので、この場合、5万円(賃貸物件の価値の増加額)
返ってきます。
必要費と有益費の違い
建物の原状を維持保存するため等に、必要な経費のことを
必要費と言います。
この必要費を賃借人(入居者)が支払った場合、
その費用を賃貸人(大家)に対して必要費償還請求権を
行使することができます。
賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
費用を支出する目的が違う
有償費は、賃貸物件の価値を増加するために費やされた費用、つまり
プラスαのための費用です。
対して必要費は、賃貸物件の維持保存等(修繕等)に費やされた費用、
つまりマイナスを補うための費用です。
請求できる時期及び金額が違う
有償費は、賃貸借契約が終了してからしか
請求することができません。
そして金額については、
・賃借人(入居者)の支出した金額
・賃貸物件の価値の増加額
のどちらか賃借人(大家)が選択した方の金額しか
もらえません。
対して必要費は、負担したら直ちに賃貸人(大家)に
請求することができます。
賃貸借契約終了まで、待つ必要はありません。
そして金額については、必要費として支出した
金額全額を賃貸人(大家)に請求することができます。
有益費と造作の違い
有益費償還請求権と造作買取請求権の違いは、
建物に設置された物で取り外しができるかどうかです。
取り外しができない=有益費
取り外しができる=造作
となります。
・雨戸
・木造の間仕切り
・空調設備(エアコン)
賃貸人(大家)が変わった場合の有益費の請求先
賃借人(入居者)が有益費を出した後に、賃貸人(大家)が
変わった場合、旧賃貸人と新賃貸人のどちらに有益費を
請求したら良いのでしょうか?
これに関しては、判例が出ています。
賃貸人(大家)が交替したときは、特段の事情のないかぎり、新賃貸人が
右有益費の償還義務を承継し、旧賃貸人は右償還義務を負わない。
そのため、不動産賃貸借契約終了時の賃貸人(大家)に
請求したら良いです。
平成26年8月に賃貸人(大家)Bに交替。平成28年4月に賃貸人(大家)Cに交替。
平成28年9月に賃貸借契約終了した場合の有益費の請求先
賃貸人(大家)Cとなります。
注意点
契約書の特約に気をつけよう
特約で「借家契約終了時に請求権を行使しない」と
記載があり、それに合意(サイン)すれば、
請求権を放棄したことになり、請求できなくなります。
そのため、必ず契約書を確認しましょう。
損害賠償請求権される可能性もある
建物の老朽化が激しく、建物を取り壊した方が
土地の価値が上がるような物件をリフォーム等した場合、
取り壊し費用が余計にかかり、むしろ賃貸人(大家)
にとって、そのリフォーム等が損害になる場合もあります。
このような場合は、有益費を償還するどころか、むしろ
賃貸人(大家)から損害賠償を請求される可能性もあります。
有益費については、原則として、賃貸人(大家)の同意・承諾は
不要ですが、損害賠償を請求される可能性もあるため、
有益費を支出する前に賃貸人(大家)に同意・承諾を得ましょう。
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